サマーウォーズのあの名台詞は、なぜ「よろしくお願いします」なのか

サマーウォーズのあの名台詞は、なぜ「よろしくお願いします」なのか

サマーウォーズは細田守監督が独立後 2 作品目に手がけた長編アニメーション映画である。 2009 年に公開され、夏の代名詞として隔年くらいで金ローに登場する。

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あの名台詞はなぜ「よろしくお願いします」なのか

「よろしくお願いしまああああす!!!!」

これはサマーウォーズの名シーンであり、クライマックスを彩る主人公の鮮烈なセリフだ。

劇中の最終決戦を締めくくるこの印象的なシーンは多くのファンの心に残り、また作品を見たことのない方でも宣伝の一部で多く目にしていることだろう。 しかしこのセリフにはその勢いとは裏腹に若干の違和感を感じないだろうか。

作品をご覧になった方であればご存じだが、このセリフは主人公が最終決戦の結果に命運を託すワンシーンである。 よくある一か八かの結果が好転することを望む意図のセリフだと認識している人もおられるかもしれない。

だが、であれば「頼む!」であったり、よしんば「お願い!」ということはあったとしても「よろしく〜」をつける必要はあるのか。

劇中の緊迫感迫る状況に花を持たせるため細かいニュアンスは意識せず勢いで盛り上げたかったのか。

それならば、単純に「いっけえ!」や「うおお!」といった叫び声でもよかったはずである。 実際その直前のシーンである花札決戦ではそのようなセリフがみてとれる。

このセリフが存在する理由をいくつかの点を中心に考察していきたい。

細田守作品のもう一つの戦い

サマーウォーズを語る前に細田守監督が手がけたある作品に触れておきたい。 細田守監督は現在でこそスタジオ地図を立ち上げ独立しているのだが、その前には東映アニメーションに所属していた。 その東映時代の代表作品に「劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」(以下、ウォーゲーム) がある。 この作品は短編アニメーション作品ながらそのクオリティの高さに多くの注目が集まり、影響を受けたと表明する演出家が多く存在する。

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ウォーゲームのあらすじ

このウォーゲームのあらすじは次のようなものである。

テレビアニメ作品の最終回から数ヶ月経った世界を舞台となっている。 突如ネット上に出現したデジタマから生まれた新種のデジモンは世界中のデータを侵食し、デジタルとリアルの両方の世界に多くの影響を及ぼしながら急成長する。 異変に気づいた太一と光子郎は休みで散り散りになっている選ばれし子供達と連絡をとり、再びデジモンたちと力を合わせて世界を救う戦いに挑む。

太一たちはデジモンたちと協力し敵のデジモンを追い詰めていくが、その急激な進化のスピードに追いつくのがやっとであった。 切り札として究極体デジモンであるウォーグレイモンとメタルガルルモンで応戦を仕掛けるも、敵デジモンも同じく究極体のディアボロモンへと進化する。 激しい戦いを繰り広げるもトラブルからわずかな差で敗北を喫し、逃亡を許してしまう。

なおも勢力を広げるディアボロモンはリアルワールドを攻撃するため、核ミサイルの発射と起爆まで 10 分のカウントダウンを開始する。 最終決戦を挑むため、再びウォーグレイモンとメタルガルルモンはディアボロモンが潜むサーバーへと向かう。 激しい戦いを繰り広げるが、その戦いを映像中継で応援する世界中からのアクセスの影響で味方デジモンの動きが鈍ってしまう。 再び窮地に陥るが、太一と大和の思いが届き姿を変えるウォーグレイモンとメタルガルルモン。 2 体のデジモンが合体し、光り輝く究極体デジモン「オメガモン」へと進化を遂げる。

圧倒的なパワーでディアボロモンを追い詰めていくも、高速なディアボロモンを捉えきれずタイムリミットが迫る。 逃げ回るディアボロモンを追い詰めるべく、光子郎は世界中から届くメッセージをディアボロモンのサーバーに転送し手動きを鈍らせる作戦をとる。 タイムリミットギリギリでディアボロモンを倒し、核ミサイルの爆発を阻止することに成功する。

サマーウォーズのあらすじ

さらにサマーウォーズのあらすじも振り返っておきたい。次の通りである。

夏休みのある日、主人公は学校のマドンナである憧れの夏樹先輩に誘われて先輩の実家を訪れる。 そこでは 3 日後に控えた夏樹先輩の祖母のお誕生日を祝うために親戚一同が集う会に呼ばれたのだった。 1 日目の夜、主人公の元に届いた怪しげな暗号が記載されたメールへ返信したことを契機に物語が動き出す。

主人公が解いた暗号は現実世界のシステムと深く連動した仮想世界 OZ のセキュリティを突破するためのものだった。 翌日、メールの主である謎の AI、通称「ラブマシーン」は現実世界に多くの混乱を引き起こす。 主人公と夏樹先輩の親戚家族の助力があり、ラブマシーンによる暴動を抑止することができた。

しかし、その次の日の朝、夏樹先輩の祖母が亡くなってしまう。 未だ暴走を続けるラブマシーンを止めるべく、弔い合戦を決意する主人公たち。 一旦はラブマシーンを追い詰めるも、トラブルから逆転負けを喫してしまう。

すると、ラブマシーンは衛星をハッキングして世界中のどこかの核施設に墜落させる計画を発動する。 この危機を回避するべく、家族全員の心を一つにしてラブマシーンへ花札決戦を挑む。 AI により脅威の学習スピードにより序盤優位であった主人公サイドであったが、わずか一手のミスでピンチに立たされる。 窮地に追いやられた状況だったが、最後は世界中の OZ ユーザーの力を借り、花札でラブマシーンに勝利する。

しかし、ラブマシーンの細工によりなおも落下する衛星を回避すべく、主人公は最後の決戦に望む。

2 作品の類似性

ご覧の通り、勘の鋭い人ならばこの 2 つの作品が大枠で似たような流れとなっていることに気付けるであろう。

  • デジタル世界が普及し、現実世界とリンクしている設定
  • デジタル世界を荒らしながら急成長して猛威を振るう敵の存在
  • 敗北→ピンチ→世界中のユーザーからの助けという戦いの流れ
  • 主人公と共に戦う仲間たちの共闘

であれば細田監督はなぜこの作品を作ったのか。 その真意を汲み取るのであれば、異なる要素に着目すべきである。 ウォーゲームとサマーウォーズで異なる点といえば次のような点である。

  • 共闘仲間 (選ばれし子供達と夏樹の親戚たち)
  • 衛星落下を阻止する最後の決戦

サマーウォーズで描きたかったものの考察

上述の作品間での差異 2 点に着目して考察をする。

共闘仲間 (選ばれし子供達と夏樹の親戚たち)

ウォーゲームでは主人公たちはすでにテレビシリーズで長い戦いを共に駆け抜けた仲間であった。 そのため、そこには作品当初から信頼関係が築かれていたし、共闘する際のコミュニケーションも円滑にとれていた。

しかし、本作では主人公は親戚家族の中に飛び込んできた部外者である。 実際に最初は歓迎されたものの、とある経緯から白い目で見られるシーンもあった。

そもそも本作の主人公は劇中でも自身で口にしている通り、家族との関係が希薄な人間であった。 初日に家族と顔合わせした食事のシーンでも圧倒されていた様子が窺え、ろくに挨拶もできていなかった。 主人公はそんな家族を目の当たりにしてある種の憧れを抱いたのではないだろうか。

だが、急な展開であったため当然心から憧れていたとはいえなかったのであろう。 実際、夏樹先輩の嘘により、当初主人公は婿候補として家族の中心核である栄おばあちゃんに挨拶をしたときに、「命をかけて守れるか」と問われて圧倒されてしまっていた。

その後、主人公は結果として家族一同と結託し、命をかけてラブマシーンとの決戦に挑んでいく。 主人公が家族と共に戦う覚悟はどこからきたのだろうか。

2 日目の夜に印象的なシーンがある。 ラブマシーンとの最初の戦いを終えたその夜、主人公は栄おばあちゃんの部屋で花札をすることになる。 その際、おばあちゃんから夏樹先輩を託された主人公だったが、はっきりとした返事をできず何かを言い淀んでいた。 結局、主人公とおばあちゃんは次のように会話を交わしていた。

「僕はまだ、自分に自身が持てません」
 「あんたならできるよ」
 「(何かを言い淀み) やってみます、としか言えません」

その翌朝、栄おばあちゃんは息を引き取ってしまう。

衛星落下を阻止する最後の決戦

これはウォーゲームとの比較になるが、最後の衛星軌道を変える戦いはサマーウォーズのオリジナルである。 ウォーゲームの焼き増しであれば、花札の決戦でラブマシーンを倒してしまっても話はついてしまうのだ。

ではなぜラストの勝負を描いたのか。 それはこの戦いこそが本作で描きたかった本質だからであると考える。

終盤で衛星が陣内家に墜落しそうになった際、家族の誰もが避難することを選択して即座に準備を始めた。 その時ただ一人諦めなかったのが主人公である。 主人公はなぜ立ち向かったのか。

「まだ負けてない」

避難するよう迫られた時に主人公が放った言葉である。 確かに負けていない、だが同時に勝ってもいたはずである。 ラブマシーンが標的とした核施設への墜落は阻止できた。

その状況でまだ引けなかった主人公の心境には、標的となった陣内家を思う気持ちがあったと考える。

家族の一員となるための覚悟の挨拶

おそらくだが、主人公は栄おばあちゃんんが亡くなってしまったタイミングから、この家族の一員になろうとしていたのではないかと感じる。 朝食でラブマシーンへの再戦を提案をしたのは主人公である。 また、細かい点だが翔太のことを主人公が「翔太にい」と呼んでいた。

最後の戦いで主人公が避難せず、家を守ろうとしたのは家族を守る気持ちを表明するためのものだったのではないだろうか。

栄おばあちゃんに覚悟を問われた際、主人公は何も答えられなかった。 しかし、おばあちゃんの死を機に家族になることを決意する。 その表明のため、ラブマシーンに戦いを挑み、家を守るために残った。

何も持たない主人公が家族に受け入れらるためには、その覚悟を示す必要があったと思ったのであろう。

血縁も、家柄も、資産もない。数学しか取り柄がない。 だけどそんな自分でも皆さんの家族に加わりたいんです。 この家を守ります。 皆んなが帰ってくるこの場所を守ります。 だから家族として受け入れてください。

「よろしくお願いしまああああす!!!!」

という想いが込められていたのではなかろうか。

つまりは家族の一員になるための覚悟を決めた主人公の挨拶なのである。